プロジェクトノート第3回 : 白身魚フライの日本市場における用途と顧客品質要求
- 牧野 輝彰
- 8月9日
- 読了時間: 4分
更新日:8月11日
白身魚フライは、業務用食材として非常に汎用性が高く、日本市場でも広く流通しています。量販店では惣菜コーナーに並び、家庭の食卓でもおなじみの商品です。テイクアウト弁当チェーンでも定番メニューとして採用されており、特に「海苔弁当」などでは主力製品として位置付けられ、安定供給と一定の品質が求められています。
本案件では、あるテイクアウト弁当チェーンに採用された事例をもとに、白身魚フライの品質仕様に関する要求事項と、それが製造効率やコスト構造に及ぼした影響について整理します。製品はすべて冷凍状態で納入され、各店舗で油調される方式が採用されていました。店舗では冷凍のまま受け取り、調理後に利用客へ「できたて」の状態で提供する流れです。
生産効率と品質のトレードオフ
本案件では、画像のような成形済みの冷凍パティは最初から使用不可とされ、自然形状の生切身を使用したバッタリング・パン粉付け(衣付け工程)が指定されました。その理由は、冷凍パティでは油調時にドリップ(解凍時に発生する水分)が原因で油揚げ時にパンクが発生する懸念があったためです。手切りする生切身(自然形状の生切身)に衣付けする場合、形状や重量のばらつきが避けられず、衣付け後の成形工程が必須となります。しかし、この工程は冷凍パティでは不要となります。冷凍パティを使用すれば、製品寸法や重量が均一になります。また仕掛原料として準備、保管が出来るので生産計画が立てやすい上、急な発注にも柔軟に対応ができます。また、重量のばらつきがないため、最終工程でのオートチェッカー(重量選別機)による全数確認を省略でき、製造全体の効率化とコスト削減が可能です。しかし今回は、その利点を活かすことはできませんでした。

さらに、切身を複数枚貼り合わせること自体は一般的な手法ですが、本案件では最大2枚までという制限が設けられました。これは過去に複数枚貼り合わせた製品で、貼り合わせの隙間にバッター液が浸透して油調時に魚の食感に滑り(ぬめり)が出たという指摘があったためです。ただし、貼り合わせには一定の加工技術が求められ、冷凍パティの成形精度が高い工場ではこうした問題は通常発生せず、技術的には十分対応可能な領域です。私と工場の共通認識としては、2〜3枚でも加工精度の高い貼り合わせであれば滑りの問題は生じないと考えていましたが、その判断は採用されませんでした。基本は一枚切身、多くても2枚という基準が設定されたことで、切り損じによるロスや作業効率の低下が避けられず、結果的にコストアップを招きました。

最終的な影響
本案件では、冷凍パティ使用不可と貼り合わせ枚数制限という2つの仕様が、生産効率の低下と歩留まりロスを招き、コストアップにつながりました。最終的にはより価格の安い工場への移管が行われましたが、その後、移管先で品質問題が発生したと聞いています。これは、第1回で述べた「品質基準の不統一が供給や精度の綻びを生む」という課題の、典型的な裏返しともいえる事例でした。

この事例は、製造合理性よりも過去の経験則や一部リスク回避が優先され、生産効率・歩留まり・コストの面で非効率を生じさせた典型例といえます。加えて、本案件はフランチャイズを統括する本部の購買部門によるもので、製品仕様は戦略的な設計というよりも、各店舗からの要望や過去のトラブル対応の積み重ねで形成されていました。そのため仕様はつぎはぎ的な内容となり、結果として現場の負担やコスト増加を招く要因となりました。次回は、これとは対照的に標準化を徹底した欧米式品質管理と、それを支えるグローバルバリューチェーンの事例について取り上げます。




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