プロジェクトノート第4回 : 欧米式生産方式と標準化がもたらす品質・効率の両立
- 牧野 輝彰
- 8月9日
- 読了時間: 3分
更新日:8月11日
この案件では、冷凍パティの使用が認められませんでした。一方、欧米式の生産方式では、フィッシュブロックを原料とするのが主流です。フィッシュブロックとは、複数枚のフィレを重ね合わせ、コンタクトフリーザーで圧縮凍結した原料ブロックであり、この「貼り合わせ」は高度な加工技術によって均一に仕上げられます。こうして形成されたブロックを機械で規格寸法にカットし、衣付けまでを全自動ラインで行うことで、大量生産によるスケールメリットと、寸法・重量の均一性を高い水準で実現します。さらに、ワンフローズン仕様(漁獲から最終製品まで一度しか冷凍しない)の場合は鮮度が良く、魚本来の食感や身質、肉厚感を高いレベルで維持することが可能です。

調理工程の欧米型標準化とプリフライ方式
欧米市場では、油調してから冷凍する「プリフライ」方式が主流です。この製造ラインでは、プリフライ工程に続き、急速凍結・包装までを一貫して行います。こうした工程により、消費者は自宅で油を使わずオーブン加熱で調理でき、手軽さやヘルシー志向といったニーズにも合致します。結果として、製品の市場競争力が高まります。
これにより、製品は均一な品質で大量生産され、在庫管理や物流の効率化が進み、供給安定性が高まります。さらに、工程ごとの標準化データが蓄積されるため、DXによる歩留まり改善や品質予測モデルの導入が容易になり、市場や顧客ごとの仕様調整も迅速に行える体制が整います。
例えば、大手水産のニッスイは、こうした生産・加工工程をグローバルに展開し、原料調達から最終製品までを一貫管理しています。アラスカで漁獲した原料を現地でフィレ化・ブロック加工し、それを世界各地の加工拠点に送り、標準化された工程で製品化することで、品質の均一性とコスト競争力を両立させています。
標準化がもたらす効率性と、その欠如による弊害
こうした欧米式の標準化アプローチに対し、前章で取り上げた弁当チェーンの仕様設計は、複数の工場や現場の経験則を寄せ集めた「つぎはぎ型」のものでした。基準が曖昧なため、製造条件や原料仕様が案件ごとに変動し、生産効率や歩留まりが安定しません。結果として、統一的な品質保証やコスト低減の仕組みが築かれにくく、現場の負担も増す構造になっていました。
この状態では、工程データの一元管理や製造条件の最適化が難しく、DX導入による効果も限定的にならざるを得ません。製造プロセスが案件ごとの都度対応に依存しているため、自動化ラインやAIによる品質予測モデルとの親和性が低く、改善活動が現場任せになりやすい傾向があります。その結果、長期的な競争力の源泉となる「標準化による効率性」とは対照的に、人手や時間を多く費やすアナログ型の運用構造が温存され、持続的な改善や競争力強化が難しい状況にあります。
次章では、この「標準化が生む競争優位性」をさらに深掘りし、他業界での具体的な展開事例を取り上げながら、その戦略的価値を考察します。







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