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プロジェクトノート第6回 : 標準化とアナログの戦略的使い分け

更新日:8月16日

欧米式の水産加工業は、製造工程の標準化を徹底することで大量供給と品質均一化を実現しています。こうしたアプローチは、第5回で取り上げる他業界の事例にも通じる考え方です。


つぎはぎ仕様の課題


一方、国内の一部弁当チェーンでは、複数工場や現場の経験則を寄せ集めた「つぎはぎ型」の仕様設計が残っています。基準が曖昧なため、案件ごとに製造条件や原料仕様が変動し、生産効率や歩留まりが安定しません。その結果、統一的な品質保証やコスト低減の仕組みが構築されにくく、現場負担が増す構造となっています。これはDX化の導入を難しくし、結果としてアナログ運用の非効率さが際立つ形になります。


もっとも、アナログな方式自体が問題なのではありません。重要なのは、デジタル化とアナログ運用をどう使い分けるかという戦略です。


戦略的アナログ活用の事例


同業他社の中には、戦略的にアナログ工程を活かして成果を上げている例があります。例えば、ある別の弁当チェーンは、漁業会社と共同でニュージーランド産のホキ原料を調達し、中国のフライ製品製造工場に出資することで、自社仕様に最適化されたバリューチェーンを構築しています。漁業や原魚の一次加工、切り身加工といった工程はアナログ作業ですが、これらを仕組みによって原料から製品までの一貫管理を実現。供給の安定性と品質管理力を強化しています。これにより、原料から製品までの一貫管理を実現し、供給の安定性と品質管理力を強化しています。


また、業スーの神戸物産は製造現場のアナログ作業をマニュアル化・標準化し、全拠点での均一な品質維持を図っています。さらに製造工程の一部を戦略的にアナログのまま残すことで、現場の柔軟な対応力や製品の特長を活かしつつ、生産効率のバランスを保っています。複数拠点で同一品質を保つ仕組みは、必ずしも大型設備や高度なDXだけに依存しない、現実的かつ再現性の高い方法です。


締めくくり


標準化とアナログ活用は対立概念ではなく、補完関係にあります。欧米式のように全工程を規格化する方法は、スケールメリットを追求する企業に有効ですが、必ずしもすべての企業に最適とは限りません。重要なのは、自社の規模、供給体制、顧客ニーズに応じた最適解を見極め、戦略的に組み合わせることです。


現代の食品・外食市場において「完全なブルーオーシャン」はほぼ存在せず、一時的に競争が少ない領域もすぐにレッドオーシャン化します。だからこそ、真に求められるのは既存のレッドオーシャンの中で差別化の軸を確立し、それを磨き上げてブルーオーシャンに変えていくことです。その過程で、標準化とアナログの戦略的使い分けは有効な武器となります。


最終的には、原料調達から販売までの全工程を一貫した方針で最適化するサプライチェーンの再構築こそが、規模の大小を問わず長期的な競争力を維持するための鍵になると考えます。


次の時代に競争力を維持するためには、DXや標準化といった「効率化の軸」と、アナログ工程の柔軟性を活かす「適応の軸」の両方を持ち合わせることが不可欠です。これこそが、国内市場における水産加工業の持続的成長の鍵になると考えます。


本シリーズは今回で完結となります。最後にご紹介するのは、神戸物産の「本気の白身魚フライ」。戦略的なサプライチェーン構築と、製造現場の標準化が生み出す一品であり、私自身が個人的に購入し愛用している商品です。本件の案件や取引とは一切関係ありませんが、標準化された製造品質の好例としてご紹介します。これまでの分析とあわせて、ぜひ実際の味わいも確かめてみてください。

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