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パイロットの原則 ― 操縦桿を握るということ



嵐の中で操縦する➖パイロットの原則


飛行機のパイロットは、嵐や乱気流といった予測できない状況に直面しても、ただ受け身で飛行しているわけではありません。

最終的に進む方向を決め、操縦桿を握っているのは常にパイロット自身です。

エフェクチュエーションにおける「パイロットの原則」とは、まさにこの姿勢を示しています。

不確実性に満ちた世界でも、自分がコントロールできる範囲に注力し、環境に振り回されるのではなく、自らが進路を描いていく。


私は上場会社の海外法人で董事長を務めていた時代、計画と管理を徹底するコーゼーション型の組織運営を目の当たりにしました。

その徹底ぶりは学ぶ点も多く、戦略と管理の力を理解する良い経験でした。

しかし独立してソロプレナーとして動き出した今は、状況は全く異なります。

市場環境や取引先の要求は常に変わり続けますが、最終的に操縦桿を握っているのは私自身です。

だからこそ、周囲の偶発的な出会いや協力を引き受けながらも、最後は自分の意思で方向性を定め、実務に反映させることが求められます。



自動操縦を設計する力


操縦桿を握ることは、単なる操縦技術に長けていることを意味しません。

実際のビジネスでは、すべてを手動で対応し続けるのは非効率であり、持続可能でもありません。

重要なのは、自ら進路を描くだけでなく、その進路を維持するための“自動操縦”を設計できることです。


この自動操縦とは、言い換えれば意思決定の原則や判断基準を仕組みとして持つことです。

たとえば、「どの顧客と付き合うか」「どの案件を断るか」といった選択をあらかじめ定義しておけば、環境が揺れ動いてもその基準が操縦の補助輪になります。

また、限られた資源をどう振り分けるか、どこに集中すべきかといった優先順位も、最初から自動化されたルールとして組み込んでおけば、迷いなく進めるのです。


実際の航空機も、長い航路の大半は自動操縦で飛びます。しかしそれは「パイロットが不要」という意味ではなく、操縦桿を握る人が常に座っているからこそ成り立つ仕組みです。

ビジネスにおいても同じで、仕組みに任せて進むことは重要ですが、想定外の出来事に対応できる人間の判断が不可欠です。

「自分がパイロットである」という前提があって初めて、自動操縦は意味を持つのです。



操縦桿を握るのは自分


私自身も、ソロプレナーとして動く中で、日々の小さな判断に振り回されないために、自分なりの自動操縦を設計してきました。

それは複雑な仕組みではなく、「自分の関心軸に合うか」「再現性を持てるか」というシンプルな基準です。

これがあるからこそ、不確実な状況でも方向性を見失わず、次の行動に進むことができています。


クレージーキルトの原則が「パートナーとのつながりや偶然の広がり」を重視するのに対して、パイロットの原則は「その広がりをどう操縦するか」という次のステップに位置づけられます。

偶発性を受け入れるだけでは、ただの漂流にすぎません。

しかし、自らが進路を描き操縦することで、初めてそれは未来を形づくる力となります。


不確実な時代において、私たちに必要なのは「操縦桿は自分が握っている」という理解です。

外部環境に翻弄されるのではなく、自分が意思決定を積み重ねて未来をつくる。

その主体性こそが、エフェクチュエーションを支える最後の軸であり、ソロプレナーである私が大切にしている姿勢でもあります。


こうしてエフェクチュエーションの5つの原則を振り返ると、それぞれが独立した教えではなく、互いに補い合いながら一つの思考の流れを形づくっていることに気づきます。本シリーズはこれで一区切りといたしますが、この学びをさらに深めるために、書籍そのものへの考察を『読書ノート』としてまとめていくつもりです。そちらも併せてご覧いただければ幸いです。



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