top of page

偶然を縫い合わせる ― クレイジーキルトの原則



クレイジーキルトとは何か


ジグソーパズルには、あらかじめ完成形の絵があります。どのピースをどこに置くかは決まっており、順番に組み合わせれば必ず完成にたどり着きます。


一方でクレイジーキルトは違います。布切れを思い思いに縫い合わせるため、決まった模様も完成形もありません。形も色も揃っていなくても、縫い合わせることで新しい模様が立ち現れるのです。


エフェクチュエーションにおける「クレイジーキルトの原則」も同じです。自発的に参加してくれるパートナーを迎え入れ、偶発的なつながりを重ねることで、思いもよらない展開が生まれていきます。一見すると行き当たりばったりですが、実はそこにこそ不確実な時代を切り拓く再現性が隠されています。



私の経験とクレイジーキルト


独立してからの歩みを振り返ると、偶然の出会いや予期せぬ出来事が後の展開を形づくってきたことに気づきます。計画に従って動いたわけではなく、むしろ目の前に現れた人や機会を縫い合わせることで道が広がってきました。


関わったクライアントの姿から学んだこともあります。偶発性を資源に変えるどころか、むしろ可能性を狭めてしまう場合もある。その経験は、私にとって「自分はどう動くべきか」を考えるきっかけになりました。


一方で、小さな偶然が次につながったことも少なくありません。海外での人脈が思いがけない形で役立ったり、何気ない会話が事業の方向性を整えるヒントになったりしました。サラリーマン時代には想像もしなかった展開です。振り返れば、そうした積み重ねが新しい模様を生み出してきました。


私は上場会社の海外法人で董事長を長年務めた経験があります。その中で、日本の組織がコーゼーションを徹底して追求する姿勢を間近で見てきました。それはそれで貴重な経験であり、計画と管理による強みも理解しています。だからこそ、今はその経験を踏まえた上で、エフェクチュエーションの視点を語れる自分があるのだと思います。


また、商社の立場で業務を担う中では、エフェクチュエーションを意識せずとも実践していた場面が多くありました。目の前の資源を活かし、偶然の出会いを取り込みながら進める姿勢は自然な仕事の進め方であり、それを今になって理論として言語化できたことで、過去の経験がより鮮明に意味を持つようになっています。



問いかけがつなぐもの


ここで重要になるのが「問いかけ(asking)」、あるいは「おねだり」の姿勢です。パートナーシップは自分から差し出すだけではなく、「助けてほしい」「一緒にやってみないか」と素直にお願いするところから生まれることも多いのです。もちろん断られることもありますが、その過程で相手が何を大切にしているか、どこに関心を持っているかが見えてきます。時には、こちらが求めていたこととは違っても、相手の欲している別のものがわかることで、新たな方向性が生まれることさえあります。その情報そのものが次のつながりの布片となり、クレイジーキルトを形づくる資源へと変わっていくのです。


クレイジーキルトの過程では、パートナーシップや偶発的な出会いによって、自分がもともと持っていた資源や計画の見方そのものが変わることがあります。これがいわゆる「リフレーミング」です。最初に握っていた“手中の鳥”が、他者との関わりを通じて違う形に見え、別の可能性を持つ資源へと姿を変えていく。この視点の転換こそが、クレージーキルトを強くする要素のひとつだと感じます。


パートナーの関わり方は十人十色です。ある人は知識を、ある人はネットワークを、またある人は現場での実行力を持ち込みます。それぞれのコミットメントは一様ではありませんが、その多様性こそが次の可能性を生み出します。


だからこそ、誰と繋がるかが重要になります。そしてその相手もまたエフェクチュエーターであることが望ましいのです。互いに偶発性を資源と捉えられるからこそ、キルトは広がり、模様を形づくっていきます。



クレイジーキルトが意味するもの


クレイジーキルトの原則は、偶然をただの偶然として流さず、資源へと転換していく姿勢を示しています。そこから得られるのは、新しい「手の中の鳥」であり、次の行動の起点です。


VUCAの時代において、緻密な計画(コーゼーション)に頼りきることは容易に行き詰まりを招きます。むしろ偶発性を受け入れ、多様な人や資源を縫い合わせていくことが、再現性を持って未来を切り拓く道になるのです。


そして重要なのは、この広がりを自分の意思で舵取りしていくことです。偶発性に振り回されるのではなく、関心軸に沿って方向づける。その先に、次の原則「パイロット・イン・ザ・プレーン」がつながっていきます。


ree

コメント


bottom of page