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次なる一手:天秤にかける勇気、損失の許容と起業戦略の現実解

更新日:8月25日

起業において、最初から全力を尽くすことが美徳とは限りません。むしろ、最初の一歩は「ダメでもともと」「失っても痛くないところから始める」ことが大切だと私は考えます。言い換えれば、ハンドルの「遊び」のような余白を持っておくこと。これは、エフェクチュエーションの基本原則「損失の許容(affordable loss)」に通じる発想です。


いきなりアクセルを踏み込むのではなく、軽くブレーキをかけながら様子を見る。例えば、副業や週末起業といったスタイルも、現代においては一つの賢い選択肢といえるでしょう。



失敗の背景と全力投球のリスク


私の知人に、コロナ収束後の需要回復を見込んで、ほぼ全ての資金を費やして「ナイトタイムエコノミーに属する店舗」を開業した方がいました。立地は大連の中心街、初期投資も内装や人件費に惜しみなく使われ、開店当初はそれなりの集客があったそうです。


しかし、そのビジネスは明らかに「疲弊型」でした。従業員を多く雇わなければ店が回らず、利益率は薄く、営業時間も長い。本人も次第に疲弊していきました。やがて客足は遠のき、最後は少数の常連客に依存し、高額なメニュー構成で帳尻を合わせようとした結果、評判まで落とすことになってしまいました。結局、わずか1年あまりで廃業に追い込まれたのです。



エフェクチュエーションとコーゼーションからの分析


このケースをエフェクチュエーションの視点から見ると、まず「損失の許容範囲(Affordable Loss)」の原則に照らして、初期投資や事業設計が適切であったか疑問が残ります。限られた資源の中で段階的にリスクを取るのではなく、当初から過大な固定費を抱え込んでいたことは、柔軟な撤退や転換の選択肢を狭めていた可能性があります。


また、仮にコーゼーションの視点で見たとしても、明確な成功モデルや持続可能な計画が描かれていたとは考えにくい状況です。ターゲット市場の選定や顧客獲得の導線が曖昧であり、計画性に基づく合理的な意思決定が不足していたように思われます。


つまり、エフェクチュエーションにおける柔軟性も、コーゼーションにおける計画性も不十分で、両視点から見てもリスクだけが先行したビジネス展開だったといえるでしょう。



成功例の比較とビジネススタイルの対比


対照的な例として、同じく大連にある私の行きつけの日本料理店を紹介したいと思います。場所はビジネス街の裏通り。こぢんまりとした店構えで、満席でも30人ほどの規模です。店主夫婦だけで切り盛りしており、名物は活鰻の蒲焼。さらに炭火の熱を活かして牛肉や鶏肉をスモークしたり、柔らかく煮込んだ豚足も人気料理の一つです。派手な宣伝は一切なく、口コミで評判が広まり、広州など遠方からも注文が入り、宅配での発送にも対応しています。


何よりこの店は、家賃や人件費などの固定費を極限まで抑え、無理のない経営スタイルを徹底しています。売上が多少上下しても日々の運転資金に支障が出ることはなく、持続可能性の高いビジネスといえるでしょう。まさに「身の丈に合った商い」を体現しているのです。


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行きつけの日本料理店。鰻の蒲焼や豚足煮込みが評判。



ユニコーン企業でさえスモールスタート


もちろん、私は「小規模であれば良い」「固定費が安ければ成功する」と言いたいわけではありません。例えば、中国発の飲料チェーン「蜜雪氷城(Mixue Bingcheng)」は、サプライチェーンを徹底的に再構築し、不況下でも急成長を遂げたユニコーン企業の一つです。香港市場に上場を果たし、TIME誌にも「世界に影響を与える100社」の一つとして取り上げられるなど、その存在感はグローバル規模に広がっています。さらに、直営・フランチャイズを合わせた店舗数は世界で5万店に迫り、スターバックスを抜いて世界最大の飲料チェーンとなっています。


私自身も大連でよく利用しますが、店頭で買える2元(約40日本円)のソフトクリームや5元(約100日本円)のアイスコーヒーは、価格の割に品質がしっかりしており、日常的に消費者に受け入れられています。さらに、フランチャイズ参加のコストも低く、若い世代や小規模資本でも起業に挑戦しやすい仕組みが整えられています。こうした仕組みが、地方都市から全国へ、そして世界へと急速に拡大する土台となったのです。


しかし、その蜜雪ですら、創業当初は地方都市で始めた小さなかき氷店でした。最初から壮大な成功を狙ったのではなく、目の前の現実的な資源を活かしながら、徐々に事業を広げていったのです。


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中国発の飲料チェーン『蜜雪氷城』。2元のソフトクリームで知られ、世界最大の店舗数を誇る。




結論と「損失の許容」の重要性


このように、どこに重みをかけ、どこを軽く保つか——まさに天秤にかけるように見極めながら、無理のない範囲で始めていくことが、結果として持続的な成長につながります。


最後にもう一度、エフェクチュエーションの中核的な考え方である「損失の許容(affordable loss)」について触れておきましょう。これは、成功の最大化を狙うのではなく、失敗しても構わない範囲内での挑戦を重ねていくという姿勢を意味します。天秤の上にそっと何かを載せてみるように、かけるべきものと、かけてはいけないものを慎重に見極めながら、自分らしいビジネスの形を模索していく。そうした積み重ねの先に、ブレない軸をもった事業が生まれるのだと私は考えます。


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